まず押さえたいこと
契約書がないことだけで、報酬を請求できないと決まるわけではありません。ただし、誰から何をいくらで頼まれ、どこまで仕事を終えたのかを確認する必要があります。請求書だけでなく、その前後のやり取りも一緒に整理します。
契約の成立と、合意を説明できるかは別の問題です
民法では、契約は申込みと承諾によって成立し、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成は必要とされていません。業務の内容や金額をメール・チャットでやり取りして受注した場合も、まず合意の内容を確かめます。[1]
一方で、相手が「まだ正式には頼んでいない」「その金額には合意していない」と言う場合は、何を根拠に合意があったと説明できるかが問題になります。請求書を出した事実だけで、記載された金額への合意まで当然に証明できるわけではありません。
フリーランス法の対象となる業務委託では、発注者に取引条件を明示する義務があります。ただし、明示がなかったことと、具体的な報酬請求が認められるかどうかは分けて検討します。[2][3]
4つの事実と、手がかりになる記録を並べる
以下の表に沿って、手元にある資料を探してみてください。全部が揃っていなくても、何があり、何が見つからないかを分けることが出発点です。
| 確認したいこと | 記録の例 | 見ておきたい点 |
|---|---|---|
| 誰から、何を頼まれたか | 依頼メール、チャット、発注書、仕様書 | 発注者の名称、担当者、仕事の内容と範囲 |
| 報酬・支払条件をどう決めたか | 見積書と承諾の返信、金額の交渉、過去の取引記録 | 税込・税別、追加費用、支払日や検収との関係 |
| どこまで仕事を終えたか | 納品メール、受領の返信、成果物、作業報告 | 納品日、納めた版、残る修正や相手の指摘 |
| 未払いの理由は何か | 請求書、催促と返信、入金記録 | 金額・品質への異議、一部入金、連絡が途絶えた時期 |
チャットの一部分だけでは、前後の条件が分からないことがあります。日時、相手、会話の流れが分かる形で保存し、元のデータは編集せずに残しましょう。保存した記録が何を示すかは、ほかの資料と合わせて確認します。
想定例:見積書と納品メールが残っている場合
想定例:制作を依頼され、納品したが支払いがない
見積書に対して「この内容でお願いします」という返信があり、その後の納品メールと「受け取りました」という返信も残っています。
この場合は、見積書の内容、依頼の返信、納品したものを順に照らし合わせます。「受け取りました」という連絡があることと、検収が完了したことが同じかどうかも、契約条件やその後の指摘を見て確認します。
相手から修正を求められているときは、その理由や内容も重要です。自分に有利なメッセージだけを選ばず、金額や仕様の変更、相手の異議も含めて時系列に並べると、相談で争点を整理しやすくなります。
上記は架空の想定例です。実際の解決実績や、特定の記録だけで請求が認められることを示すものではありません。
次に連絡するときと、相談で整理できること
相手への連絡では、対象の仕事、合意した金額、納品日、支払条件を短く示し、未払いの理由を確認することが考えられます。すでに催促を重ねている場合や、品質・契約条件に争いがある場合は、これまでと同じ連絡を繰り返す前に対応を整理しましょう。
- 依頼から現在までの出来事を日付順に並べる
- 合意したと考える内容と、その根拠になる記録を結び付ける
- 相手の説明や異議、自分が返答した内容も残す
- 支払ってほしい金額と、今後も取引を続けたいかを整理する
法律相談では、記録から説明できること、追加で確認したいこと、次の連絡や手続の選択肢を検討します。請求額が小さい場合は費用との釣り合いも確認します。長期間経過している場合や、相手から期限を示されている場合は、その日付もお知らせください。
参照した法令・公的資料
- 民法522条(契約の成立と方式)(別タブで開きます)
書面の有無と契約の成立に関する説明。
- 公正取引委員会「フリーランス法 Q&A」Q35・Q41(別タブで開きます)
取引条件として明示する事項と、メール・チャットによる明示。
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律3条(別タブで開きます)
対象となる業務委託における取引条件の明示義務。
法令・資料の確認日:2026年10月11日。制度の適用や対応は、契約の内容・取引の実態によって異なります。
この記事は一般的なご案内です。個別の案件の結論や、特定の結果を保証するものではありません。